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予防法務超基礎編その2〜相手の資力〜

「予防法務超基礎編」では、法律家にとっては、基本中の基本の話なのですが、企業の法務部門向けの本などでは、あまりにも基本的すぎて、なかなか触れられていないながらも重要な事項について触れていきたいと思います。スタートアップ企業やベンチャー企業など、創業して間もない企業や小規模で法務部門が整っていない企業などは、参考になるかと思います。

さて、今回は、「相手の資力」についてです。

「資力」という用語は、法律家が好んで使う言葉で、イメージしづらいかもしれませんが、要は、相手の財政状況ということになります。もっと砕けた言い方をすれば、相手がお金や資産をもっているかどうか、ということになります。

なぜ、相手の資力が重要になるかというと、例えば、相手に対して、お金を払ってシステム開発を依頼した場合で、お金を払ったにもかかわらず、相手がシステム開発をせずに逃げてしまった場合には、日本では自力救済は認められていないので、訴訟を提起して、判決を貰ったうえで、強制執行をしてお金を回収するという流れになります。

ところが、仮に裁判で勝訴したとしても、相手に資力がない場合(相手にお金や資産がない場合)、強制執行を実現できず、回収することはできません。「相手としっかり契約書を締結したんだから大丈夫」と思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、契約書は判決で勝訴するためには有効ですが、強制執行で回収する場面では意味がありません。
したがって、相手に資力がない場合には、明らかに相手が不当であるにもかかわらず、金銭を回収できず、こちらが一方的に損をするという結論になってしまうのです。

なお、相手に資力があるかどうかは、裁判所は調査してくれず、こちらが自分で調査しなくてはなりません。しかも、預金を差し押さえるには、原則として銀行名のほか、口座が開設されている支店名まで把握する必要があるのですが、個人情報保護の問題もあって、なかなか金融機関も情報を開示してくれません(近年では民事執行法の改正もあって開示が認められるようになってきましたが、銀行を横断的に調査できるわけではないので、まだまだ不十分です。)。したがって、相手に資力があっても、その所在が不明の場合(相手が資産を隠してしまっている場合も含みます。)も、資力がないものと同等に扱われることになってしまいます。相手が実体があって多くの企業と取引を行っている企業であれば別ですが、小規模の企業については、資産を発見できない場合もかなり多くあります。

ちなみにですが、警察の協力は得られません。単なる契約違反では警察が取り締まることはできませんし、詐欺に該当すると考えられるケースでも、警察は立証が困難で労力を要することを理由に、積極的に捜査してくれないケースがほとんどです。ですので、警察に頼ることもできないのです。

以上の次第ですので、取引をするにあたっては、相手が契約違反をした場合に訴訟を提起して回収できるか否か、相手に資力があるか否かを、事前に、しっかりと調査し、見極める必要があります。
調査の結果、資力に不安がある場合には、資力がある者に連帯保証人になって貰うとか、あるいは資産的価値がある資産に担保権を設定する等の方法も考えられます。これに応じてくれない場合には、取引をしない、といった選択もあるところです。

将来の紛争予防のためには、以上のことに気をつけてみてはいかがでしょうか。
当事務所では、取引をする際のアドバイスも行っておりますので、お悩みの際には、お問い合わせフォームより、お気軽にご連絡ください。

<結論>

  • 取引をするにあたって、相手に資力があるか否か、信用できる会社か否かををしっかりと調査し、取引をするに値するか否かを見極めましょう。
  • 相手の資力に不安がある場合には、連帯保証人をつけるか、相手の資産に担保を設定することを試みましょう。

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